ゾンビーノ(Zombino)。原題[Fido]
日本公開(2007)
監督:アンドリュー・カリー
脚本:アンドリュー・カリー、ロバート・チョミアック、デニス・ヒートン
出演:キャリー=アン・モス、ビリー・コノリー、ディラン・ベイカー、ヘンリー・ツェニー、ティム・ブレイク・ネルソン
配給:ライオンズゲート
時間:91分
レイティング:PG12
●ストーリー
かつて宇宙からの放射線の影響で死体がゾンビとなり人々を襲う事態が発生。
しかしゾムコム社が開発したゾンビを従順にする首輪によって、地球に平和が戻った。それから数年後の小さな街ウィラード。
ティミーの家でもペットとして最近流行のゾンビを飼うことに。
いじめっ子から助けられたのをきっかけにゾンビと仲良くなったティミーは、ゾンビに「ファイド」と名を付ける。
しかしファイドが近所のお婆さんを食べてしまい……。
●感想
ゾ ン ビ ー が ペ ッ ト ! ?
っていうと「えっ!?」って思うんだけど、そこまでペット要素は高くないッス。むしろ奴隷。労働力。
DVDでは初めてのレビュー。レビューっていうかマジでただの感想なんですけど。
ゾンビーと言えばホラー。
それこそバイオハザードのような群衆で襲ってくる恐怖としてはゾンビーは今やトップクラスなクリーチャー。
労働力っていう意味では失敗してる感が否めない彼ら。
最初期のゾンビーというと「ベラ・ルゴシのホワイト・ゾンビ」ですかね。
あの時既にゾンビーは「低コストな労働力」としての登場だった。
この映画でのゾンビーはどういう立ち位置か。
一般家庭にまで浸透した「取扱注意な労働力」なんですよね。それは旧来のゾンビーそのもの。
オカルト世界で、一部の魔術師や呪術師、悪魔なんかの労働力を一般家庭として利用したら? そういうところのお話。
ゾンビーがペット! なんていうけど、なんてことはない。
「支配を逃れた凶暴な今日のゾンビー」と「重労働者としての旧来のゾンビー」を同居させた映画なんです。バイオハザードなんかは軍事力として結構ビジネスに使えるんじゃねってくらいになってますけど。まぁ、4,5のはゾンビじゃあないですし。6でどうなってるのかは体験版しかやってないみじゃあわかりゃせん。
とにもかくにも「人権の無い人型労働力」と言うとよぎるのは「黒人奴隷」で、それを面白おかしくオマージュした映画といったところ。
奴隷、職業としては使用人。身分やら人種やら、そういった壁を撤廃して仲良くなろうとする人ってのはいつの時代にもいたはずなんですよね。
それこそ、この作品に登場した「テオポリス氏」が特にそれを顕著に表現したキャラクター。
それこそ、労働力・奴隷・ペットなゾンビーとキスまでする。わざと凶暴化させたゾンビーと戯れて夜を過ごすなんてのもそう。
そこらへんは、本編冒頭からゾンビーに対して懐疑的だった主人公ティミーに影響を与えていたんだろう。
ヘンダーソン老女史の偏屈さ、ティムの実父であり、ゾンビー嫌いと破滅思想的なゾンビーへの恐怖から家族にすら素直な愛情表現が出来ないビルの不器用さ。
そういう屈折した思想を持った大人、厳しすぎる大人と自由な、理解ある大人の狭間に居れば少年であるティムには判断は付かないんだろうね。
ゾンビーという目を引きやすい「労働力」を黒人差別時代とすり合わせて、コミカルに描いた作品。
あと、原題の「Fido」って言うのはペットに付ける名前としてはベーシックらしいですね。
日本で言うところの猫なら「タマ」とか、犬なら「ポチ」とか、そういう感じの名前なんですよね。
これを固有名詞だし、そのまま持ってきても良かったんだろうけどやっぱりそこは日本の広報。「ゾンビー」をプッシュしたいのは丸見えですわ。
ゾンビーとバンビーノ(イタリア語で男の子)でもかけたんじゃあなかろうか。
これ【カナダ】の映画ですけど。あそこ英語とフランス語だった気がする。
この映画は「ゾンビー映画」ではない。
「ルールを守りましょう」なんて映画でもない。
至ってありがちな「愛情」の映画。
そもそも、ゾンビーの首輪が作られた理由からして「ゾンビー化した妻を失いたくないから」という我儘から生まれた物。
そして、ビルが家族にも冷たい程ゾンビー嫌いになるのは、ビル自身が11歳の時、ゾンビーになった父を撃ち殺した事が原因となっている。
深く掘り下げはしないものの「ビル・ロビンソン」がどういう人生を歩み、どういう思想を持っているか、って言うのが分かりやすく触れられているんですよね。
多分、ビルの父親は良い親父だったんだろう。そんな父がゾンビーになって襲ってきた。
それが非常にトラウマになっているんだろうと想像に難くないのは、作中のビルのヒステリックな一言にも上手く凝縮されている。
ビルは、自分の愛する人に襲われたくはない。殺したくはない。そして、襲いたくない。そういう優男だったんでしょうな。
優しいんだけど臆病だったんだろうね。親父を殺す羽目になればそりゃそうか。
妻のヘレンは社会的に「普通の幸せ」が欲しかったごく普通の女性で、ゾンビー嫌いな夫と周りの住民との摩擦に耐える強かな女性。
第二子を身ごもっている辺り、ビルとの仲も冷めきってはいないわけだし、ビル自身情を捨てることが出来ない人間ってのは強く描写されていたしね。
親子の愛情、夫婦の愛情、そして、身分を超えた愛情。
そういった様々な愛情を皮肉と風刺たっぷりに描いたコメディ映画。
短い描写で、人間関係をきれいに描いているし、ゾンビーのちょっと間抜けに見えるウスノロさと凶暴さ。メイクもおざなりでなく、綺麗に仕上げていて楽しい。
少年ティムとゾンビーであるファイドの信頼関係を主軸に置きつつも、ビルの精神的な解放っていうところに眼が行ってしまったなぁ。
多分薦めてくれた友人とは違うベクトルではあるけど、非常に満足できる映画だったことには間違いないです。
「ゾンビー」とは何か。という基礎的な入門にも向いた作品ではないでしょうかね。
ところでさ、ティムの父であるビル・ロビンソンを演じた、ディラン・ベイカー。
ちょっとケネディ大統領に顔、似てない?
ケネディは人種差別問題に奴隷解放のために深くかかわってた人で、やってることビルとは違うタイプの人だけど。
あと、タミー可愛いよタミー。弾丸が頭かすって皮膚えぐれちゃったタミー。活動停止してなくてよかったわ。
妻であり、母であり、女であるヘレンが良妻賢母過ぎて、あの人良心的な範囲ではあるけど、チートだろ。ポジションとキャラクターがおいしすぎる。ってところでおしまい。
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