サムエル、ビルの入り口からゆっくりと登場してくる。
サムエル 「苦戦しているようだな。今さらサイボーグを斬るのためらうのか? お前は一殺多生の活人剣を是としたのではないのか?」
雷電 「貴様……」
雷電、膝をつく。ビルの入り口上の高台からモンスーン登場。
モンスーン 「ずいぶんといい格好だな。ジャック・ザ・リッパー。私はモンスーン。"破滅を呼ぶ風<ウィンズ・オブ・デストラクション>"と呼ばれた一人……」
雷電 「……ご大層だな。無法者<デスペラード>風情が」
モンスーン、高台からゆっくりと飛び降りてくる。
サムエル、モンスーンの姿に感心した様子を見せ、モンスーンと目が合うと呆れた様子で首を振る。
モンスーン 「サイボーグ達にもそれぞれの人生がある。貴様はその事実から目をそらし彼らを斬り続けてきた。そしてあまつさえ、その体液を啜り、自らの糧にしてきたのだ」
雷電 「奴らを利用しているのは誰だ? 奴らの人生を弄んでいるのは? 他人の弱みにつけ込んで、どれだけ搾取する気だ?」
モンスーン 「いい言葉だ、ジャック。搾取は社会の本質だ。だが私とて、自ら選んで生きてきたわけではない。殺さなければ殺される、そんな世界で生きてきたのだ。プノンペンのキリングフィールドで、私はこの世界が人類という種が腐りきっていることを知った。いいか、ジャック。人間の意志は周囲の環境から創られる。自由意志など存在しない。意志を支配するのはミームと呼ばれる心の遺伝子……。意志とは無関係に、ミームは文化を伝える。利己主義、絶望、憎悪、復讐心……。そうしたミームも伝染する。憎しみにさらされ続ければ、自らもまた人を憎むようになる。そして、憎しみのミームは増殖していく……」
雷電 「全てはミームのせいってわけか?」
モンスーン 「全ては自然の成り行きだ。風が吹き、雨が降る。愚かな人間が殺しあう。同じことよ。貴様の"活人剣"とやらも所詮はミーム……。ミームは心の隙間に入り込む。人を活かす剣とは心地よいお題目だったろう? そして貴様は、相手の人生の重みから目をそらして人を殺す。その重みを見せられて戸惑うのが証拠だ。恥じることはない。全ては自然の成り行きだ……。意志も判断も存在しない。ゆえに自己責任もない。だが自然の成り行きとして貴様のミームはここで消える。貴様の命とともにな」
雷電 「待てよ……。礼を言わせてくれ。ずっと心のどこかで迷っていた。"愛国者達"が滅びてから、俺は戦いを捨てて平穏に生きることも考えた……。だが俺にできたのはこんな仕事だけ、その挙句がこのザマだ。俺はこれが正義だと、弱者を守るためだと思っていた。だが違ったんだ」
モンスーン 「懺悔か?」
雷電 「認めたくなかったが……、心の奥で、俺は戦場を求めていた。リベリアの仲間で俺だけが、アメリカ社会に適応できなかった理由は……、俺だけが、人斬りを……、楽しんでたからだ。活人剣はそんな俺を救ってくれたよ。おかげで俺は今まで"ジャック・ザ・リッパー"を封じ込めることができた……」
モンスーン (度惑った様子で)「貴様……」
雷電 「……だが、お前の話で目が醒めた。刀はあくまで人を殺す道具だ」
モンスーン 「何を言って……」
雷電 「……ジャックに、戻る刻だ」
モンスーン 「……殺れ!」
サイボーグ兵M 「嫌だ……!」
雷電、ゆっくりと立ち上がったところでサイボーグ兵に腹部を正面から刺される。
雷電 「(笑ってから)ドクトル……。俺の痛覚抑制を外せ」
ドクトル 「バカな、そんなことをしたら……」
雷電 「やるんだ!」
ドクトル 「あ、ああ……」
雷電、痛みに呻き声を上げた後、笑いながら腹部に刺さった刀に手を掛ける。
雷電 「痛みだ……、これでこそ、戦いだ……!」
雷電、腹部に刺さっていた刀を抜き取る。
雷電 「(含み笑いをしつつ)戦場<ここ>が俺の居場所……。これが俺だ……」
モンスーン 「貴様……、まさか……」
モンスーン、顎でサイボーグ兵達に指示を出し、サイボーグ兵三名、雷電に襲い掛かるも、全員斬り捨てられる。
雷電 「(笑ってから)次はどっちだ?」
サムエル 「俺が行こう」
モンスーン 「下がれ、サム。お前はボスとところへ戻れ。奴は俺が殺る」
サムエル 「(呆れたように)……じゃあ、どうぞ」
モンスーン 「……どうやら、貴様は、我々の同類だったようだな」
雷電 「死にたいのはお前か? (笑ってから)俺の名はジャック・ザ・リッパー、リベリアの白い悪魔……。俺の……、人斬りの本性を教えてやる。見ておけ――。これが俺の、戦いだ!」
vs モンスーン戦
モンスーン、雷電に切り刻まれて頭部だけに。
モンスーン 「なるほど……、私の、負けか……」
雷電 「残念だったな。お前のミームはここで途絶える。全て自然の成り行きだ」
モンスーン 「いや……、虐殺のミームは……、お前に……。お前が虐殺を……、続けてくれる……。それが、自然の……、成り行き……。土に還る……、時が来た……。風が吹き、雨が……降る……。強い者が……弱者を、殺す……。これで……、良かったのだ……」
雷電の元に無線が入る。
ケヴィン 「大丈夫か」
雷電 「……安心しろ、ケヴィン。子供達の脳は必ず取り戻す。俺みたいな人間は一人で充分だ」
ケヴィン 「(心苦しそうに)そうだな……」
雷電 「……あとでな」
雷電、無線を切りビルの中へ入っていく。
[43回]